重症心身障害医療

重症心身障害医療とは

 重症心身障害とは“重度の知的障害および身体的障害が重複していること”と定義されています。その概念を法律的に定めているのは日本だけです。和製英語ではSever Motor and Intellectual Disabilities(SMID)と呼ばれています。重症心身障害児(者)の頻度は、その出現率が対人ロ比0.03%といわれ、長野県では入所と在宅がほぽ半数です(表1)。全国にある国立病院機構病院で重症心身障害匿療を担っています。長野県内には5つの施設があり、当院は124床です(表2)。

(表1)重症心身障害児(者)の頻度

重症児の出現率(対人口比)0.03%
長野県の総人口(2016年)208万人
県内重症心身障害児(者)推定数約650人
県内の病床数:374床 県内の在宅生活者:280人

(表2)長野県の重症心身障害児施設

施設名 定員(床) 所在地 設立母体
信濃医療福祉センター 60 下諏訪町 (福)信濃医療福祉センター
稲荷山医療福祉センター 30 千曲市 (福)信濃整肢療護園
国立病院機構 東長野病院 124 長野市 国立病院機構
国立病院機構 まつもと医療センター
      中信松本病院
80 松本市 国立病院機構
国立病院機構 小諸高原病院 80 小諸市 国立病院機構
合計 374    

脳性麻痺

 重症心身障害児(者)の原因疾病の多くは脳性麻痺であり、受精から生後4週までに何らかの原因でうけた脳の障害によって引き起こされる運動障害をさす症候群です。重症心身障害児(者)の中でも、呼吸管理・摂食管理等の有無等により医療度を点数化し、スコア25点以上を超重症児、スコア10点以上を準超重症児と呼んでいます。当院では超重症児が10人、準超重症児が8人です。人工呼吸器を装着している方は7人おり、私もバックを押しながら入浴介助をしております。

いのちを支える医療

 重症心身障害医療を一言でいうならば、「いのちを支える医療」と、考えています。それは“生命を守ること”と“生活・人生の質を高めること”の二つの幹からなっています。
 その一つ“生命を守ること”は、呼吸・循環等の障害を出来るだけ取り除き、摂食・呼吸・排泄を助け、感染予防等をすることです。
 もう一つの幹は“生活・人生の質を高めること”は、生活のリズムを整え、対人関係を保ち、社会性を身につけ、コミュニケーションを大事にすることです(表3)。

(表3)いのちを支える医療

いのちを守り
呼吸・循環、摂食、消化、排泄、感染予防等
心を育て、人生の質を高める
生活リズム、対人関係、社会性、言語・コミュニケーション機能

医師として

 担当医の役割は日常生活での健康管理、合併症である感染症・呼吸疾患・消化管疾患・てんかん発作等の治療、他の専門医との連携、そして最終責任者としてのスタッフの総括です。重症心身障害医療を担当する医師の約半数は小児科医ですが、私のように外科医から転向して、重症心身障害医療に携わっている人も少なくありません。合併症で一番多いのは呼吸器感染症で、高頻度に易重症化及び易遷延化がみられます。インフルエンザの集団発生には特に注意していますが、今回の新型インフルエンザは重症心身障害病棟への感染を防ぐことができ、一息つきました。次にイレウス及び再発性逆流性食道炎等の消化器疾患が多く、異物摂取による腸穿孔の開腹例も経験しました。約90%の方が抗けいれん剤を服用しており、重積発作となって、総合病院に搬送したこともあります。

療育について

(図1)療育風景

療育風景

 この医療の一つの幹である障害児(者)の心や知を育て、生活や人生の質を高めることを広い意味での“療育”と呼んでいます。それは障害児(者)の可能性を追求し、可能性の限界を知ってもなお手を尽くすことだといわれています。療育にはすべてのスタッフが関わりますが、とりわけ指導室が大きな役割を担っています。指導室の職員は児童指導員と保育士とからなり、それぞれの専門性から成長・発達の視点で日々の生活の中での療育を考え、実践しています(図1)
 また、学童には隣接する県立若槻養護学校から訪問学級が行われ、そこでは、その子にとっての自立に向かう力、よりよく社会に参加する力を育んでいます。彼らのアートが街に並ぶ「上野の森の小さな芸術家展」は学校の恒例行事になっています。親御さんも「もっとも弱いものを一人ももれなく守る」という理念のもと守る会をつくり、私たちを支援してくれています。

ケアの本質

 この医療に携わるうちにケアの重要性を知るようになりました。多くの医療は治療(キュア)とケアから成っており、そのバランスは診療内容によって異なります。重症心身障害医療はケアの比重が大きい医療の一つです。ケアの特徴は双方向性とお互いの成長にあります。提供側から受ける側への一方向性ではなく、提供する人は受ける人から多くのものを受け取り、教えられます。そして提供する人、受ける人の双方に人間的成長をもたらすといわれています。ある母親から聞いた言葉「この子から、最も多くのことを教わりました」は、ケアの本質を物語っているように思います。

次世代のために

 当院では障害医療の理解を深めてもらう目的で、市内の研修指定病院から研修医を「地域医療」の枠で受け入れています。この研修は臨床研修制度の趣旨である「医師としての涵養を育てる」にも合致していると思います。その研修の一般目標を、1)いのちを支える障害医療を理解する、2)医療における治療とケアを認識することとし、これに基づいて行動目標を決めています。出来るだけ若いうちに経験してほしいと考えます。

在宅生活への支援

 いま、出生時に命は救われたものの、人工呼吸器等の医療的サポートが必要な小児が増加しています。日本で出産後1年以上病院にいる幼児は300〜500名と多く、ポストNICUとして問題になっています(図2)。そのうち98%が重症心身障害で、77%が超重症児です。これら重症心身障害施設の使命として、ポストNICUから在宅生活へ橋渡しをする中間またはサポート施設としての役割があると思います。
 1981年国際障害者年を契機としてノーマライゼーションの思想が広く浸透して、家族や施設関係者を含む多くの人たちが、重症児でもまずは在宅生活をめざすことが重要であると考えるようになりました。そのために、短期入所、通園事業および介護者の休息のためのレスパイト等の体制も次第に整えられてきました。当院は以前からの短期入所事業に加え、平成21年10月1日から通園事業を開始しました。通園ルームでは、日常生活活動、運動機能等にかかわる訓練など必要な療育が行われています。

(図2)いのちを支える医療

いのちを支える医療

おわりに

 知的障害の父といわれた糸賀一雄氏は、重症心身障害児(者)の療育の基本を「この子らに世の光を」ではなく、「この子らを世の光に」と述べています。そこには“生きる意味”を教えてくれる重症心身障害児(者)への深い洞察と、それを人々に伝える努力の必要性を含んでいます。この医療を、多くの医学生および医師に経験してほしいと願っています。

これよりフッタ